思い出は断片的にしか記憶されない「ピーク・エンドの法則」について

 ■行動心理学

「ピークエンドの法則」とは何か

 

ピークエンドの法則とは、私たちが何かを体験した時、主に記憶に残るのは、その出来事の一番印象深い “ピーク”の部分と、その終わり“エンド”の部分だけであり、それ以外の部分はほとんど記憶に残らないという現象のことです。

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンによって提唱されました。

 

実験による検証

ピークエンドの法則は、ダニルカ・カーネマンの行った実験結果でも明らかにされています。

手を冷水に入れる実験

実験内容は、被験者に冷水(14℃)に1分間手をつけてもらう不快な体験をしてもらいます(これを【体験A】とする)。次に、同じ被験者に別の体験もしてもらいます。14℃の冷水に1分間手をつけるところまでは同じですが、その後の続けて30秒間15℃の(14℃よりは不快が少ない)冷水に手をつけてもらいました(これを【体験B】とする)。

客観的に見ると、【体験B】の方が冷水に手をつけている時間が30秒も長いため不快感は強くなると思われます。ですが、両方の体験を終えた被験者に「もう一度体験するならどちらがいいか?」と質問したところ約70%の被験者達は【体験B】を選んだのです。

つまり、【体験A】では“ピーク”も“エンド”も14℃の強い不快が記憶されるものの、【体験B】では最後の30秒間に不快度が下がったため、それが“エンド”の印象として残り、脳は【体験B】全体の体験の方が良かった(不快が少なかった)と錯覚して記憶してしまうのです。

騒音による実験

冷水を用いたのと同じような方法で、騒音に対する不快感の実験も行われています。

被験者を2つのグループに分け、Aグループには不快な騒音を大音量で8秒間聞かせます。もう一方のBグループには、最初のグループと同じ騒音を8秒間聞かせたあと、少し音量を下げた騒音をさらに8秒間追加で聞かせました。

その結果、やはり最後に「音量を下げた騒音」を聞かされたBグループのほうが、Aグループよりも不快度が低くなるという結果が得られました。これも、ピークエンドの法則によって最後の「音量を下げた騒音」の印象が強く残り、実験の不快度が低く記憶されたものと考えられます。

 

体験時間 (期間)も脳の記憶量に関係しない

ピークエンドの法則によれば、それを体験していた時間 (期間)も脳が記憶する量には影響を与えないということが示されています。例えば、旅行に出かけた期間が、1日であろうと、7日間であろうと、旅行した時の記憶量には差は出ないということです。

これも容易に実感することができます。あなたが過去に旅行した時の思い出を遡ってみてください。
1日短日の旅行の思い出と、1週間ほどの長期旅行の思い出を比較したとしても、長期旅行の方が短日旅行より7倍も思い出が溢れてくる、などということはないはずです。結局のところ、旅行の期間中、最も印象深い部分(景色のいい温泉に入ったなど)と、終わりの部分(旅行は楽しかったなど)に、断片的なシーンが集約されて記憶されており、記憶量には大差はないと感じるはずです。

その原因としては、記憶に影響を及ぼす「持続の軽視」と呼ばれる脳の錯覚が関係しています。人は長期にわたって体験したことを記憶するのが難しく、短期間に集中して体験すた経験の方が脳の興奮を引き起こしやすいため記憶に残りやすくなるのです。そのため、“ピーク”となる部分や、“エンド”の部分以外は記憶に残りづらいという状況が発生します。

 

商売でも活用できるピークエンド

高級レストランに行くと、お会計を終えた後も従業員が、親切にコートを羽織らせてくれたり店の外までお見送りをしてくれるということがあります。このように、最後まで接客を尽くしてくれたという“エンド”の記憶は、提供された素晴らしい料理に匹敵するほど記憶に残ることになります。

もし、あなたが接客業に従事しており、お客からクレームが発生してしまった時は、諦めず最後まで今まで以上に丁寧な接客を心掛けましょう。そうすることで、“ピーク”の記憶は悪くのこってしまうかもしれませんが、“エンド”の良い記憶によってクレームの記憶は薄まる可能性があります。

また、遊園地でもピークエンドの法則が隠れています。1つのアトラクションに乗るために1時間以上並んだとしても、実際にアトラクションを体験できるのは5分程度です。客観的に考えると、とても非効率な楽しみ方にも感じます。ただ、アトラクションによって得られる興奮は“ピーク”として楽しい記憶として強く残り、それまでの退屈な待ち時間は記憶からかき消されて記憶に残りません。

 

人生を後悔のないものにするために

オーストラリアの看護師ブロニー・ウェアが出版した「The Top Five Regrets of the Dying」では、死期の近い患者が感じた「人生の後悔」の中で意見の多かったTOP5がテーマとなっています。

人生の後悔TOP5

  1. 「他人が自分に期待した人生ではなく、自分に忠実に生きれば良かった」
  2. 「そんなに一生懸命働かなくても良かった」
  3. 「もっと自分の気持ちを伝える勇気を持てば良かった」
  4. 「友人関係を続けていれば良かった」
  5. 「自分をもっと幸せにしてあげればよかった」

この中で、男性において最も多かったのが「そんなに一生懸命働かなくても良かった」後悔となるようです。

生きていくために仕事をすることは当然大切なことではあるものの、日々仕事に追われて“ピーク”となる経験や幸福感がないがしろにされていないでしょうか。1日の終わりの就寝前に「今日も仕事だけで1日が終わってしまった。」と感じる日々が続いていないでしょうか。

ピークエンドの法則で考えると、1日の中にあなたが興奮できるような“ピーク”の時間を少し設けるだけでも充実感が得られるかもしれません。また、今の生活にどれだけ後悔する過去があったとしても、定年後に楽しい人生を送ることができるなら、忙殺されたメリハリのない人生を“エンド”の記憶で幸福な喜ばし記憶へと塗り替えることができるかもしれません。

 

まとめ

人間の脳は最も興奮した“ピーク”の記憶と、結末となる“エンド”以外はほとんど記憶に残らない。記憶の量に経験していた時間は大きな影響を与えない。

ピークエンドの法則を利用することで、相手への印象や、自身の人生においても良い記憶をコントロールして留めておくことができるかもしれません。

 

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