組織が注意するべき「機長症候群」の危険性

 ■行動心理学

「機長症候群」とは何か

 

機長症候群とは、社会的地位の高い人や専門知識を持った人の判断に対して、間違っていると感じてもメンバーは受け身の姿勢をとり責任を放棄する傾向のことを指しています。

自分よりも立場が高い (優秀な)人がいる場合、人は意見することや批判すること避けやすいのです。
また、自分の立場が高い場合、メンバーからの意見を受け入れづらくなるのです。

 

航空機事故からの教訓

機長症候群という名は、過去実際に起きた航空機事故から名付けられています。また、アメリカ連邦航空局は、航空機事故の多くは機長が犯した判断ミスを他の乗員が正さなかったことが原因で発生していると報告しています。

1982年フロリダ航空90便が、離陸直後ワシントンDC近郊の氷の張ったポトマック川に墜落して、78人の死者を出した悲しい事故がありました。

当時、90便は滑走路除雪作業のために約2時間遅れでの出発となっており、本来であれば出発前に凍結による機体への影響に注意するべきでした。ただ、機長は問題ないと判断し、副操縦士もそれに従ったのです。

その時の離陸から墜落までの会話は以下のようなものです。


(離陸滑走中)

 副操縦士:(計器を指して)見てください、おかしくありませんか?これは間違っている。
機長:いや大丈夫だ。80ノット出ている。
副操縦士:違う気がする。でも、あっているのかもしれない。
 機長:120ノット。
副操縦士:これで良いのか分からない。

(離陸し無理やり高度を上げようとするが機体は上昇せず)

 副操縦士:機長、下がってます!
機長:失速だ、落ちてる!
副操縦士:ラリー機長、墜落する、ラリー……。
機長:
わかってる!

(墜落音)


この事故はエンジン推力が出ていない状況で離陸したために、離陸後失速したことが墜落原因です。エンジンを全開にしていれば墜落は免れた可能性が高いと事故報告書に記載されています。

離陸滑走中に副操縦士が異常に気付き機長にも伝えたものの、機長は問題視せず離陸を続行してしまいました。
もし、機長が副操縦士の指摘に耳を傾けていれば。もし、副操縦士が機長の判断にしっかりと意見することが出来ていれば。このような事故は防げていたはずです。

 

他業界でも起こる盲従の危険性

「機長症候群」は航空業界だけに見られる傾向ではありません。病院でも同じような研究結果が報告されており、ベテラン看護師だとしても担当医師の意見に対して盲従してしまうことで、患者へのプロとしての責任を放棄してしまうことが明らかになっています。

その実験では、研究者がさまざまな病院のナース・ステーションに電話して、自分はその病院の医師だと名乗り、その病院の対象患者にアストロゲン薬剤を20mgを投与するよう指示しました。なんと、この病院ではアストロゲン薬剤は使用が認められておらず、指示された投与量はメーカーが定めた1日最大投与量の2倍であるにも関わらず、指示された看護師の95%がそれに従おうとしたのです。

この調査では、大勢のスタッフがいる病院では、複数の専門知識を持ったプロがそれぞれ判断により実行しているものと思われがちだが、実際はそれらの知性のうちの1つ 「医師の判断」しか機能していない恐れがある、と結論づけられています。

事実、優秀な上司だけではなく、専門家や業界の第一人者の指示に対しても、人は自分自身で意思決定することを放棄しやすいことも分かっています。過去にあたなも上司の指示に対して、おかしいと感じつつも実行に移したことがあるのではないでしょうか。

 

機長症候群を回避するために

立場が強いため上司の言うことに従うことが「機長症候群」の本質ではありません。ポイントとなるのは、優秀な上司の判断に対して、おかしいと感じているにも関わらず自律的に考えたり上司と議論することせず責任を放棄してしまうことです。それは問題の無視でもあり、結果的にネガティブな状況に陥る可能性が高くなります。

特に会社内において上司は権限を持つ立場の人間です。会議の場などでは「機長症候群」がもともと生じやすい状況にあるわけです。

「機長症候群」を回避するためには、このことを関係者が理解した上で、自分の立場(上司は部下が発言しづらいと感じていること。部下は上司にも間違いがあるということ)を把握し、会議などを実施するべきです。その場合ブレインストーミングなどを用いて、立場の異なる人たちが発言しやすい状況を作ることも有効となります。

「優秀な人間でも間違いはある」ということを意識し、「おかしい」と感じたらしっかり議論する勇気を持つことが大切です。

 

まとめ

大きな組織や会議になればなるほど、「機長症候群」は発生の可能性が高くなります。

どのような業界でも起こりうるため、関係者は「機長症候群」という傾向があることを知っておくことだけでも回避に繋ります。

 

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