ビジネスシーンでも起きる「生存者バイアス」に注意する

 ■行動心理学

「生存者バイアス」とは何か

 

生存者バイアス(英:survival bias)は、生存バイアスとも言われとも呼ばれています。
失敗あるいは脱落していったサンプル(事例)が存在することを鑑みずに、一部の「成功者(生存者)」のサンプルのみに着目して、誤った判断のことを意味する言葉です。

有名な話で第二次世界大戦中の戦闘機の話があります。
当時、連合軍は戦闘機の装甲を強化することでパイロットの生存率を上げようとしました。ただ、機体全体の装甲を厚くすると重量が増え飛行スピードが落ちるため、専門家たちは装甲を強化することで最大の効果が得られる部位を特定しなければなりませんでした。

そのため専門家たちはどの部位の装甲を強化する必要があるのか検討するため、被弾しながらも無事に帰還した戦闘機を調査しました。その時の被弾のデータは以下のように両翼と尾翼に集中していました。

それを見た専門家たちは、最も被弾の多い両翼と尾翼の装甲の強化が必要だという結論に至りました。ですが統計学者エイブラハム・ウォールドは異論を唱えます。「この被弾データは無事に帰還した戦闘機からのデータしか考慮しておらず、被弾して撃墜された戦闘機のデータがのみ反映されている」という主張でした。

専門家たちが集めた被弾箇所のデータは、無事に帰還した戦闘機からのみ得たデータであり、被弾したとしても飛行に問題がなく帰還することができたことになります。そのため、飛行できないほど致命的なダメージを受けた戦闘機は無事に帰還することができず被弾データが取れていなかったのです。
つまり、被弾箇所が多い箇所の装甲を強化するのではなく、被弾データの取れなかったコックピットやエンジンなど帰還した戦闘機の被弾箇所以外を強化すべき、ということを意見したのです。

このように、生存者のデータのみを参考にしてしまい、表面上に出てこない敗者のデータが反映されずに偏った判断を引き起こすことが生存者バイアスの罠です。

 

身の回りで起きている生存者バイアス

他の例からもどのような生存者バイアスがあるのかご紹介しましょう。

《例1》昔に比べてがん死亡数が増えているのは、医療の質が下がったからなのか?

2015年のがん死亡数は、1985年の約2倍となっています。なぜ癌による死亡者数が増えているのでしょうか。

データだけを見ると医療の質が下がったことで死亡者数が下がったようにも思われます。
ですが、これは医療の質が下がったからではなく、逆に医療の質が上がったことによって、昔と比べると人間の平均寿命が伸びたことによる人口高齢化が理由となるのです。医療の質が向上したことで、昔であれば早くして他の病気で亡くなってしまっていた人数が減りました。そのため高齢化により癌にかかる人数が増えたのです。

単に癌患者が増えたことに注目してしまうだけでは、生存者バイアスの影響を受けてしまいます。

《例2》成功者を真似すれば成功することができるのか?

「億万長者が教える6つの成功法」、「○○企業の自伝」、こういった記事には成功者の助言や成功秘話などが書かれています。その内容を実践することで、誰もが同じ様に巨万の富を得れる様に感じます。ただし、問題はこういった成功者の背景にある変動要因を見落としたまま、不十分なデータを基に判断しているにすぎません。

成功者と同じような方法を行っていた人や、成功者以上に能力が高かったのに失敗した人はおそらく何百人もいるでしょう。しかし、そういった人に関する記事はなかなか見つかりません。なぜなら失敗した人は表舞台からは姿を消してしまっているからです。

《例3》合格者の数が多い塾は優れているのか?

予備校や塾の謳い文句で、「○○大学合格者数10名」「▲▲高校合格者数5名」などの様に掲げていることがあるかと思います。ただ、その情報だけでその予備校は質の高い教育を提供しているのだと判断することは危険です。本当に質の高い教育かどうかは、合格した人だけではなく全ての生徒の成績を確認するべきでしょう。

《例4》退職率を下げるために意見を聞くべきなのは誰か?

企業の人事としては退職率を下げたいと思うはずです。
在職している従業員に対して会社に改善してほしい要望をヒアリングすることは非常に大切なことです。ただ、現在も会社に属しているということは、今の会社状況に一定の不満は感じているかもしれませんが退職までは至っていないということになります。また在職中は社内評価を気にするあまり会社への本音を聞き出すことが難しいでしょう。

その場合、既に退職した元従業員や、退職予定の従業員にしっかりと退職理由聞き出すことで、退職に至ることになった会社の問題点を見つけて退職率の改善の糸口があるかもしれません。

 

生存者バイアスに騙されないために

このように成功するための方法として言われていることが、実はたまたまな要因があって運良く成功したことだけを参考にしていて、多数の失敗事例が反映されずに偏った情報になっている、、、という認知の歪みは多数存在します。成功が失敗よりもはるかに目立つために、成功への見通しを甘く見てしまうのです。

成功者の発言は当然影響力のあるものですが、その時の外部環境によって成功しただけに過ぎないこともあります。また、前線から退いた者たちのデータや意思表示などが表に現れずらく、まさに「死人に口なし」であることも心に留めておきましょう。

多角的な視点で物事を見る様にして、表面上に出てきていない情報にも耳を傾けることがバイアスに陥らない方法です。

 

まとめ生存者バイアスとは失敗した事例が存在することを鑑みずに、表面的に見える「成功者」のサンプルのみに着目して、誤った判断のことを意味します。

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